紅双華妖眸奇譚 (お侍 習作89)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
 


 
          




 頭上にかかるは無慈悲な煌月。その蒼光を吸ったかのように、鮮やかな緑の蛍光を滲ませていた小石の導べは、広々と広がる草の原を縦断し、禁足地だという山へと連なる森の中を突っ切ってのようようと。蔦のすだれで入り口を覆われた一味の塒の岩窟へまで、勘兵衛たち一行を見事に導いた。

 「うわぁ〜、やっぱり遺憾なくの暴れておいでのようですねぇ。」
 「………。」

 岩窟の入り口にまずはの一山。それぞれに個性を主張してのことか、不揃いな恰好をしたならず者らの屍が、折り重なっての散らばっており。さほどに歪んだ顔の者が居ないあたり、瞬殺にて仕留められたがために、自分の身の上へ何が起きたか、分かっていないまま絶命した者ばかりだということがありありと窺える。
「このような言い方は不謹慎かもしれないが、腕が立つ者の手にかかるということは、それだけ、恐怖も苦痛もなく逝けるということなのかも知れぬな。」
 余程のこと、悪さをし倒して無辜の人々を泣かせた悪党には勿体ない話だが、と。彼もまた同情はさっぱりしていない五郎兵衛殿の言いようへ、ふふと鼻先にて小さく苦笑った勘兵衛殿だったのは。これだけの亡骸を前にした修羅場にて、だのにこんな問答が交わせる自分たちへ、それこそ呆れてしまっての笑みだろか。
「とはいえ、気配がないところを見るとまだ中においでのようだ。」
「そうみたいですね。」
 冥府への黄泉坂の如く、昏い口をぽかりと開いた岩窟を見やり、それぞれのお顔を見合わせあっての頷き合うと、此処へと来たりたそのままに並んでの、躊躇なき突入を敢行するお三方。あの鬼のように強い剣豪が中に突入中だということは、彼との再会だけを目指せばいい。手ごわい相手がいたものならば、手古摺っておるところに合流出来るだけのこと。その時は、助太刀にかかればいいだけと踏んでの、作戦も何もあったものじゃあない進撃であり、
“まさかなんて言い方は、失礼かも知れませんが。”
 先頭切って隧道を駆け降りる、蓬髪の壮年軍師殿の背中を眺めやりながら。彼ほど慎重周到な御仁が、なのに様子見もそこそこの、こうまで手っ取り早くとあたったこと。後から思えば…それほどまでに、まだ見ぬ連れ合いの身を ただただ案じていた彼だったのかも知れぬと。こっそり感じていた平八だったりし。心までもが“夜叉”だとは言わないものの、いざとなれば女子供でも斬るのが侍。だからと言って、守りたいものや愛おしいと思うもの、持ってはいけない訳でなし。練達であることを熟知した上で、乱闘にあたってはその背を預けもするほどの相方。そうまで信頼をおいた腕前の士であっても、

 “それとこれとは別ですものね。”

 自分はもはや死人も同然、心も涸れ果てて水の匂いもするまいよと。いつぞやの正念場、水分りの巫女様からの想いを断ち切らせた折の、毅然としていて冷酷だったあのお言いようをふと思い出し。無意識の内ではそれは情の深いお人であろうに、なればこその力づく、情など忘れ去った筈の人斬りの身と、自己を堅く戒めておられたものが。
『少しは潤いが戻ったということでしょうかねぇ』
 などと思うにつけ、苦笑が浮かんで仕方がなかったと平八がぼやいたは後日の段。

  「…あれは。」

 どこまで続く下りやら。行くか戻るか以外の方向は、上も下も左右も全て、堅い岩盤に封じられた、尋常ではない圧迫感も満ち満ちた暗闇の中。ところどころに篝火こそ設けられているものの、およそ生きているものとは全くの全然出会えぬままに。そこここに転がる屍からの道連れを食ってのこと、もしかして本当に黄泉まで繋がっているのかもと思い始めたほど下ったところで、やっとのこと遠くからの人声がした。もう少し先の下層部からで、どうやらそこが終点であるらしく。速足のままながらも気取られぬようにと気配を殺し、ひたひたと降り立った終着の地では、

 「…久蔵殿。」

 何とも判りやすい構図が展開されている只中で。淡い色合いの振り袖に袴という、滅多には見られぬだろう稚児衆姿の細やかな背中は、その手へ太刀を2本も握り、金の綿毛を乗っけているから久蔵殿に間違いはなく。やはり暗がりの中だからだろうか、それともそんな見慣れぬいで立ちのせいか。肩や腰の細さ薄さがいよいよ極まっての、何だか頼りなく見えて。
「向かい合っておるのが、賊らの頭目らしいが。」
 それともう一人。随分と距離を取っての中途半端に離れたあたりへと、みすぼらしいいで立ちの小男が同座してもおり。がらんと開けた岩窟の空間。天井も高くて開けていることが、見通しがいいものの逆にこちらの侵入をも阻む。こうまでの殺戮突入をしでかした久蔵が、だのに何故また、痩せ男ひとりを相手に、手も足も出ないで立ち尽くしているものか。ここはさすがに状況を読むための材料が要りようと、ぐるり内部をまさぐっておれば、

 「はは〜ん。赤子を盾に取られていますよ。」

 声はほとんど出さない話法。吐息が掠れる程度の音にて、平八が呟きながら示した先にいた、介添えだか何だか臆病そうな小男の懐ろ。言われてみれば、何かしら大事そうに抱え込んでいるよな格好であり、しかもそこへと向けた小太刀がかざされている。
「あれが久蔵殿の枷か。」
 哀れと思ってと言うよりも、確かに気後れしたその上、あのような小さな存在でままになると思われたのが口惜しいのだろうさと。これも後日に勘兵衛が、見事その通りの心情を言い当てたのも今はさておき。
「何とかならぬか。」
 ああした上で何を取引しておるやら。あんな小さなややを害すか、それが嫌なら本意を曲げての相手の意のまま、何かしら飲むしかないとは悔しかろうにと。勘兵衛が端とした声で聞いたのへ、
「お任せを。」
 あっさり応じた元・工兵殿であり。誰かさんの双刀よろしく、背に負って持って来た包みを降ろすと、輪になった綱をほどいての引き伸ばしながら、かがんでの片膝立てる格好になって、足元の岩盤を靴の底にて擦ってみる。ところが、
「…おや。この岩盤は相当に堅そうですね。」
「そうなのか?」
 だが、こうまでの地下要塞もどきを掘り下げておるのにと思ってのこと。怪訝そうに五郎兵衛が訊けば、
「ええ。他は知りませんが、床だけは別格。もしかしたら金剛石が練り込まれているのかも知れませんね。」
 でもまあ、床は関係がありませんしと、綱の準備を終えると今度は、ジャケットの胸ポケットから掌サイズのスコープを取り出して。久蔵らが立っている辺りを見やりつつ、その下部に下がっている定規にて、何かしらの角度を測っている模様。てきぱきとそれらを済ませた平八は、包みに同梱されてあった、一対の細身の弓を取り上げると、そのそれぞれを勘兵衛と五郎兵衛へと差し出して、
「よろしいですか? 私の合図でお二方、ここから仰角○○度、ゴロさんは右◇◇度、勘兵衛殿は左へ◎◎度の天井へ、その矢を射込んでくださいませ。」
 結構な土壇場だろうに、どうぞお試し下さいませとの背中を押すよな軽やかな言いよう。余程のこと、自信のある仕掛けであるものか、再びスコープを覗き込む平八にはそれ以上の仔細を話すつもりもないらしいので、
「やってみますか。」
「…うむ。」
 それぞれなりに屈強で上背もある壮年ふたり。言われた通りの角度を定め、細身とはいえかなり強靭な素材の弓をきりきりと、胸板ふところを大きく開いての引き絞ると。尻に綱が連なった矢をつがえ、合図とやらを待つことにした。





            ◇



 さすがは地底深い場所であるせいか。それとも、自覚は薄いがそれなり追い詰められた立場にあるからか。相手にはさして重荷ではないらしき沈黙が、こちらには少々居心地が悪くて。

 『ここは一つ、
  あなたの側からも、我らへの恭順の証しを立てて下さいませんかね。』

 恭順なぞした覚えもないし、するつもりもないのだが。さっき見切らなかった小さな命、そうと断じたことをそのまま通したいなら、徒に抗うのは得策ではないのだろう。全てを得るか、何も欲さぬか。童子のような理屈だと、いつぞや勘兵衛から笑われたことがあったそれ。何の、誰よりも強ければ、貫き通せる意気地だと。言いはしなかったがそうと断じてのこと、自信満面、鼻先で笑えば。やれやれと肩をすくめた憎たらしい奴の、

 “………追って来やったか。”

 微かな微かな気配が拾える身であることが、ほのかに擽ったかった久蔵で。そのままちらと、赤子を抱いた男を見やり。その眼差しを すうと尖らせてゆけば、

 「〜〜〜〜〜。」

 意図は判らぬが、そこは臆病さを買われた身。尋常ではない威圧を感じたか、びくくっとその身を萎縮させ。となれば、腕へ抱かれた赤子が驚き、ふややんと何とか声を振り絞っての泣き始めてしまって。

 「…これでは何も出来はせぬ。」
 「なに?」

 これみよがしの溜息混じり。芸人の舞台衣装だ、それなりに華やかな色合いの衣紋に包まれた肩を落とすと、投げ出すような言いようをする久蔵で。
「考えてもみよ。このような魔物、今初めて向かい合ったのだ。何をするにも気を静めねばならぬというに、赤子の声がする中でどのような集中をせよと?」
 はぁあと遣る瀬なさげな言いようをした彼なのへ、そういうことへも過敏な男であるものか、
「…っ!」
 頭目殿からの叱咤の目線が飛ぶより早く、泣き出した赤子をあやそうとの大慌て。揺すっただけでは埒が明かぬのへ、小太刀を剥き身のまま足元へ降ろすと、両手がかりで頭上へ掲げ、ほれほれ泣くなと持ち上げたその刹那。

  ―― こんな地底のどこからか、それは鋭い疾風が翔って来たりた

 ひゅっという、風籟の唸りも鋭い一閃が宙を切り裂き。小さな赤子を持ち上げた小男を狙って飛んで来た矢があって。だが、ひえっと慌てた彼には掠めもしないで通り過ぎ、2本もあった矢はどちらもが、結構な高さの天井へと突き立った。命拾いをしたことへ、それでも縮んだらしい肝を延ばそうとしてか、ふうと息をついた侍従の小男だったが、
「…っ、なにをしておるかっ!」
 御主の怒声にハッとしたのと、その手からぐいと引かれる感覚があって、人質の赤子が誰ぞに掻っ攫われたのがほぼ同時。
「え?」
 久蔵も御主も最初の位置から動いてはいない。恐ろしい魔物は敷石の下だし、では他には誰がいたものか。がらんとした岩窟は、暗いとはいえ見通しがいいから、何処にも誰も隠れようがない筈で。何処だ誰だと巡らした視線が、入り口のほうへと宙空をすべってゆく赤子の上へ戻る。誰もいないが、ならば取り返さねばと。すばしっこい身を生かしての、素早く駆け出した彼だったのに。何もなかった、誰もいなかったはずの方向から、どんと真っ向から突き飛ばした存在があって。
「…なっ。」
 眼前を横一文字に薙いだは、銀色の目映い一直線の光。その光を押し出して来たは、眼光鋭い、白い衣紋の見知らぬ男で。自分に何が起きたのかも判らないまま、男はその意識を背後の遠くまで吹き飛ばされており。その場にごとり、その身が落ちての倒れ伏したときにはもう、息も絶えてのこの世にはおらず。

 「ややは無事ですよっ!」

 矢自体は天井の岩盤へと突き立ったので大正解。よしよしとあやす格好で掲げられた欣幸を逃してなるかとの間合いにて、素早い合図が飛んでの射かけられた矢にはそれぞれ、ちょいと工夫のある綱がくくられてあって。途中で繋がっての輪になっていたところに、赤ん坊を引っかけての見事捕まえたのを見届けた平八が、ぐいと引いての奪還にかかって。矢から手元までへと張り渡した格好になった綱の上、輪環の仕掛けを操って、すべらせるよにして引き寄せにかかった赤子。それを取り戻そうとしてのこと、素早い切り替えから追いかけられたのには、正直焦った平八だったが、
「…っ!」
 このままでは破綻になだれ込むものかと。はっとした面々の中から、ただ一人。素晴らしいばねにて飛び出したは、白い衣紋へ蓬髪たなびかせた、頼もしい背中の君であり。
「哈…っ!」
 ゴツゴツとした意匠も雄々しきは、腰に差したままだった大太刀一振り。それを素早く抜き放っての居合いにて、赤子を向背へとやり過ごしてからの一閃、こちらへ飛び込んで来た小男を、胴斬りの真っ二つに裂いた刀さばきは、神かはたまた鬼の所業かとしか言いようがない鮮やかさ。そんな一連の助太刀を、背中を向けたままにて感じ取っていたこちらの剣豪もまた。胸の閊えが落ちたる僥倖へ、やっとのことで薄く微笑って見せたのち、

 「…見果てぬ夢であったようだの。」

 もはや何の盾も持たぬ身となり果てた、頭目殿に向けての餞け。低い声にて呟いた久蔵。せっかくの所望で招かれたのに、借り物の刀で相手をして済まぬなと。その大きくはない手の中で、それぞれの柄をくるりと回し、順手と逆手に握りし双刀を翼の代わり。たんと踏み出すとあとは瞬殺の手並みも変わらず。順手の切っ先で柄にかかった手元を撫で切り、身を触れんばかりに寄せつつの、逆手の刃で脾腹を裂いて。あっと言う間に離れた相手、もはや関心はないものか、倒れ込んだ響きへさえ見向きもせずにやり過ごし。ぶんと振るって血糊を飛ばした刀をば鞘へと収めた勘兵衛の傍ら、落ち着いた足取りで舞い戻る。向こうでもその気配は感じていたらしく。歩み寄って来た彼を自分の間合いの尋の中、迎えはしたが、そのあとが問題で。
「…。」
 やっとのことで戻って来た連れ合いの、端正ながらもいつもと変わらぬ、けろっとしたままなお顔を視野へと収めたその途端。ほっとしたには違いないながら…眉間に深々としわが寄り、言いたいことがたんとありそうな。何とも微妙なお顔をする壮年殿なのは、久蔵の側でも承知の上。何せ、打ち合わせにはなかったことのやり放題。しかも、臨機応変とはとてもじゃないが言い難い、あちこちに周到な準備をしいた仕儀だっただけに、勝手なことをしおってという、叱責の一つや二つ、飛んで来るのも仕方がなかろうと構えてもいたのだが。

  「…あまり気を揉ませてくれるな。」

 やっと戻り来た愛しい人の、細い肩へと両手を乗せて。どこかしみじみと呟いた彼だったのは、
「…っ。」
 正直言って 不意を突かれた扱いだった。叱るよりも無事だったことへの安堵が大きいと、張り詰めさせてた気持ちを緩めての言いようであり、
「…っ。島田…っ。」
 それへこそ、何かしら反駁したかったらしい久蔵だったが、そんな彼らのやり取りを遮ったのが、

  ――― ごうん、という重い地鳴り。

 不意を突かれたせいもあったが、足腰には自信の彼らが転びかけたほどの大きな揺れは、足元真下の巨大な妖異へも伝わって。ぐるるるる…との低い唸り声を上げたがために、やっとその存在へと気づいた五郎兵衛がおおと目を見張り、こちらへ来かけていた平八を制する。
「何物ですか、これ。」
「…猩々だ。」
「しょ…?」
 何にあっても平然としているのは常のこと。さらりと答えた久蔵だったのへは、食ってかかっても始まらぬと、乾いた笑みでやり過ごし、
「そっか、こやつが例の妖異ですね。」
「そっかじゃなかろうが、ヘイさんよ。」
 動じないところではお主も久蔵殿と変わらぬぞと、今度は五郎兵衛が呆れて見せる。
「伝承に語られた妖異が、そのまま今生きておろう筈がなかろうが。」
 何百年も前の話ぞと窘めたところが、

  「…さて、それはどうかな。」

 息も絶え絶え、苦しげな声が思わぬ方向からの合いの手を入れて来て。何だ誰だと見回した中、床の地盤に這いつくばった陣羽織の痩せ男が、何とか顔を上げてのこちらを見やっており、
「そやつがいた、のは、そりゃあ冷え冷えとした、地下の氷室だ。仮死状態になっての、冬眠でもして、いたのかも知れぬ。」
 何ともしぶといことよと久蔵が眉を寄せ、そんな彼の胸前へと、勘兵衛が彼自身の得物、赤い鞘に収められたる月峰・雪峰を差し出して。そんな呼吸へとだろか、仄かに微笑んでいた彼だったのが、逆にちりりと来たものか。うら若き剣豪殿には癇に障りもしたようだったが、そんなささやかなやり取りを、一気に吹き飛ばしたのが、

  「もはや野望は潰えたが、ならば…こやつを解き放つまで。」

 ああ君だけは助かるね。誰のせいで起きた惨劇か、ただ一人生き残って、せいぜい噛みしめるといいさ。そんな憎まれを並べて、ふふふと薄く笑った頭目の言いようへ、はっと表情を弾かれたのが久蔵で。そんな反応へこそ怪訝そうに眉を寄せる勘兵衛へ、うら若き連れ合いが必死の眸を向ける。

 「ここが落ちるぞ。」
 「落ちる?」
 「岩盤ごと落とすと、この化け物を解き放つ用意はあると、さっき言っていた。」

 ああ、どうして通じぬかと、酌み取りたいのは山々だろう勘兵衛に掴みかかってのすがるようにし、即妙な言葉が出なくて苛立つ久蔵の様子を見ていた平八。多くを語らぬままがせめての勝利ということか、やっとのこと息絶えての放置されたままな頭目格の男の亡骸を見据えて…その手元を見、

 「何かしらへ点火したのは間違いないですね。」

 小さな赤子を抱っこしたまま、落ち着いた声でそうと告げると、
「金剛石入りの頑丈な岩盤を落としたところで、さしたる怪我もしないでしょうこの化け物には、選択権がやれぬこととなりますが。」
 いつの間にやら、きりきりと鋭い風貌になり。双眸もくっきりと開いての、戦闘態勢に入っている彼が、残りの3人を見回して。

 「よろしいか? お三方。
  今から、ここからの撤退と同時、
  私が指示した箇所を…壁でも柱でも床でも、
  ご自慢の太刀筋にて叩き切っていただきます。」

 言ってる間にも、順次連動しての爆破がいよいよ始まったらしく。ここを落とす仕掛けが大きく動き出した気配が、地響きとともに伝わって来ており。
「手持ちの爆薬だけでは、到底 こやつを此処へ生き埋めに出来るだけの崩落は起こせませぬ。よろしいか? 皆様の太刀にかかっておりますぞ?」
 これを最後と言い置いて、頷き返したお仲間のお顔を見回すと、駆け込んだ入り口に向かいながらの、まずはの指示が飛んでくる。

  「久蔵殿、双刀でX印をここから仰角○○の天井へ。
   ゴロさんは、右の壁、斜め2時の辺りを横一文字。
   勘兵衛殿は皆が出た後の刳り貫きを、
   縦と横への十字に切り崩してくださいませ。」

  「…。(承知)」
  「おうさっ。」
  「判ったっ!」

  「いちいち返事は要りませんっ。
   これは序の口、以降の指示を一つたりとも聞き漏らさぬよう心得てっ!」

 何だか大忙しな段となっての終焉で。平八の凛々しき指示の声が飛び、それへと応じる皆様の反射が、いかに鋭いかにかかっている後始末。一度通って来たのみのこの隧道の構造を、しっかと覚えておればこそ。落盤もどきの土砂崩れに巻き込まれぬよう、緻密な計算を繰り出しての弾き出される指示であり。


 「だ〜〜〜っ! 違います、久蔵殿っ。その石柱の向こうっ!
  勘兵衛殿、久蔵殿に左右の別をちゃんと教えておられますのか?
  何でもシチさんに任せていてはなりませぬぞっ!
  ゴロさんっ、もう一踏ん張りですっ。
  生き埋めになりたくなくば、走った走ったっ!」


 ………おかしい。一体いつから何処から、こういう路線のお話になってしまっているのだろうか。
(う〜ん)









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 *あははのは〜〜〜。////////
  次で終わりですよんvv

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